IPv4アドレスの枯渇とIPv6への移行 ~ Interopカンファレンスより ~
IPv4アドレスの枯渇
IPv4は中国やインドなどの急速な発展と、ユーザのブロードバンド化に伴う常時接続により急速に消費され、2011年にはほぼ枯渇してしまうということはグローバルに認識されるようになり、世界的にIPv6への移行の必要性が緊急的課題とされている。
総務省もインターネットの円滑なIPv6への移行に関する調査研究会を2007年8月に発足させ、IPv4との共存手法を含めたIPv6への移行方法が理想論ではなく現実論として論議されている。
その中でGoogleはIPv6サイトを発足させ、北京オリンピックのオフィシャルサイトもIPv6で構成され、そして北京オリンピックのメインスタジアムの証明システムの制御を松下電工がIPv6技術を用いて実現している。
しかし依然としてIPv4のサイトは数多く存在し、2011年までに残された時間はきわめて短い。すでにインターネットサービス事業の経営ならびに財務計画に組み込まなければならない時期にある。
Carrier-Grade NAT
インターネットへの接続の主流がダイヤルアップだった時代、エンドユーザはインターネットを利用するときのみ回線に接続し、グローバルIPを借り受け、利用が終わると利用していたIPを返却していたので、IPv4のアドレスは十分足りると思われていた。
しかし昨今ブロードバンド化が進むのと同時にNATルータによる常時接続が当たり前となったため、貸し与えられたIPアドレスは返却されることは少なくなり、結果的にIPv4アドレスの枯渇が懸念され始めた。また、インドや中国のインターネット需要の高まりにより加速度的にIPv4アドレスは足りなくなり始めた。
そこで考えられ始めたのがCarrier-Grade NATである。これはISPにNATルータを設置し、ISPから貸し与えられるIPアドレスがプライベートアドレスとなる。そしてこのCarrier-Grade NATは多くのサービスに対応すべく、できるだけトランスペアレントな(透過性の高い)ものが望まれる。
ところで、NATによる通信は1IPのもつポート数を超えることはできないため、NATを使ったとしても同時に通信に使えるTCPセッションは60000あまり。
一部ユーザがp2pなどで音声通話やファイル交換、映像配信などをおこなうことでセッションを占有してしまい、ユーザ全体に均一なサービスを提供することは難しくなってしまう。
ほかのユーザが不利益を被らないためにはISP側で1ユーザにつきセッション数制限を設けるべきだが、仮に5000ユーザが同時に接続してきた場合、15セッションも割り当てることができない。
すると、―ひとつの例だが― Google Mapに矩形の穴が開くようになる。これはリアルタイムな入力をWebに反映するAjaxが、一度に大量のTCPセッションをつかむためである。
同じような不具合として、iTunesや楽天など大量の写真をひとつのページに表示するようなサイトでもセッションに空きがなくなった時点でタイムアウトが発生する。
またRSSも大量のフィードを読み込むためにTCPセッションを消費する。また動画配信サイトではおよそ50~90程度のセッションを消費するといわれているので15セッションではやはり少ない。
TCPセッションは通信が終了すれば空きができるため、それほど多くのセッションが絶えず使われてしまうことはないとも考えられるため、1ユーザあたり1000程度が妥当ではないかという意見がある。
IPv6の実装状態とIPv6への移行タイミング
以上の点からIPv4からIPv6への移行は必然であるが、メジャーなコンシューマOSで現在IPv6をネイティブにしゃべることができるのはWindows Vistaのみで、Windows XPはInternet Explorer, Windows Media Playerの他は、telnet, ftpなどのコマンドラインアプリケーションのみとなり(サードパーティ製品では、Mozilla FirefoxやOperaのほか、Apache HTTP Server、Meadow、Tera Term、FFFTPなど)通信アプリケーションは著しく限られる。
Mac OS X は10.4以降からは完全に対応しているが、依然としてWindows XPが数多く存在している中、急にIPv6をディファクトスタンダードにするわけにはいかない。
Windows98がそうだったように、ある程度まではWindows XPをはじめとしたIPv4ノードを生かしつつIPv6の設備を作り、Windows XPのユーザが一定数を下回ったと思えるところで切り落とすのが現実的であるが、移行期間中のIPv4アドレスの延命措置を考慮しなくてはならない。
ところでこの数年、現在日本ではIPv6への以降までの時間があまりにも少ないため、キャリアやISP間で今までになかった技術意見交換が活発におこなわれている。
そしてアメリカのインターネットワークの技術開発はめまぐるしく、通信インフラにおいて世界ナンバーワンでインターネットではアメリカの10年以上先を進んでいるといわれていた日本が圧倒されつつある。
これはアメリカには軍というとても優秀なラボラトリーがあるためで、技術がまったく表に出ない状態で開発を進め、ほぼ完成したところで日本と同等かそれ以上のクオリティが発表され、ディファクトスタンダードにされてしまう。
現代社会においてインターネットはとても重要なインフラの一部であるのが、こういったことで特許や権利を持ち出され、うかうかしていると安価で安全なインターネットが脅かされかねない。
以上のことも含め、これからのISPでもCarrier-Grade NATの導入は十分に考えられるし、段階を踏まえ数年後にはIPv6への完全移行がおこなわれることになると考えられる。
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